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Tue Dec 2 04:00 PM
中古家具買取 横浜を語ろう
医療現場では以前は、〃床ずれは看護婦の恥″の大原則のもと、床ずれはあってはならないものでしたから、できた床ずれについての研究は、タブーだったんです。
これはおそらく、近代的な看護の原点のひとつとして、〃床ずれ予防には体位変換で同一部位の圧迫を除去する〃ことの発見があり、床ずれを作らないことが、看護婦のプロ性の象徴であった時期が長かったからかもしれません。
清拭と体位変換だけでは床ずれは予防できない、という事実を認めたくない思いは、私自身のなかにもありますからね。
看護の仕事は床ずれ防止だけではないが、でもやっぱりそこにこだわる。
その思い込みが強いと、自分もつらいし、現状認識を誤ってしまう。
でもそれを完全になくすのも、淋しい気がするんです。
こんなに、さまざまな思いの交錯する床ずれとの闘いは、それを通して自分の価値観が見直せるほどの思い出を、たくさん残してくれました。
看護婦の、この原則を踏み外さない一途なまでの真面目さは、たいていの場合、いい結果を生むと私は思います。
定刻どおりに始まる引き継ぎや、翌日に仕事を残さない律儀さは、他人に対する寛大ささえ忘れなければ、結構心地よいものだと、私は感じます。
ただ、教科書的な原理原則にこだわるあまり、現実から外れてしまうというおそれがあるのも事実。
そうした典型的な葛藤が、床ずれと看護婦のあいだには、あるように思ったのです。
彼女の身体を拭くのは毎朝のメインイベントのひとつでした。
なぜなら、蛋白を含んだべたべたする水で汚れた身体をきれいにし、すぐに汚れるとわかりつつ、水の出てくる穴を消毒してガーゼを当てるのには、二人がかりでゆうに一時間はかかったからです。
私が、〃床ずれの予防はとても無理″と感じた初めてのケースは、全身の血管炎を合併した悪性リウマチの六十代の女性。
彼女は若いうちからの関節リウマチが悪化し、五十歳前から車椅子の生活をしていたのですが、徐々に血管病変も合併。
心筋梗塞を起こして九死に一生を得たりするなかで、寝たきりになり、最後の入院は、最初から完全に寝たきりの状態で意識もぼんやりしていました。
そしてなによりすごかったのは、彼女の皮層のもろさ。
全身の血管がもろくなっていて、血管が本来ならば外に漏らしてはいけない、蛋白質を含んだ水分まで、皮下に漏らしてしまうため、全身が水泡のような状態だったのです。
身体の向きを変えると、下になっていたほうの皮層が紫色になって、ちょっとこすっただけで皮がむけます。
そしてそこからどんどん水が出てきて、紙おむつ数枚がびっしょりになり、しばらくしてさらに身体を反対側に向けると、また同じことのくり返しでした。
また、水は点滴の跡や採血の跡などの、小さな穴からも同様に出てきます。
要するに、皮層のさまざまな部分から水が出て、水膨れがつぶれるように薄皮がむけていく状態だっそうやって、人間が生きていくのに必要な蛋白質が、どんどん漏れ出しては、病状はもうじり貧。
点滴などで入れても入れても、皮層の穴から漏れ出してしまうのですから、手の施しようがありませんでした。
約二カ月の経過で彼女が亡くなる時には、背中の皮層のほとんどは赤くむけ、最も身体の重心がかかる尾てい骨の部分は、骨まで露出してくる状態。
身体の肉となる蛋白質が外に出てしまうことで、できた傷は治りにくく、床ずれがどんどん進行した結果だったのでと、患者さんに二人で声をかけながら、身体の左右の端までくまなく拭いていくのですが、そうやって身体を動かすたびに水がしみ出て、換えたばかりのガーゼが濡れていくのを見るのは、なんともやりきれない気持ちがしたものです。
ただ、彼女の意識がすでにぼんやりしていたのが、せめてもの幸いでした。
意識がはっきりしていたら、あの赤むけの皮層への処置は、たいへんな苦痛を伴ったに違いありません。
「今度は左」「じゃあ今度は右を向きましょう」無力でした。
そして彼女が亡くなった時、身体を清めるのも、正直なところひと騒動でした。
亡くなってからも、皮層の小さな傷から水がどんどん出てくるので、浴衣を着せることがなかなかできなかった。
「これじゃあ、おうちにつくまでに浴衣が汚れてしまうわね」と、思案していた先輩看護婦は、仕方なく、注射針を皮下に刺して、たまった水をどんどん吸引しました。
すると、水の引けること、引けること。
足と腕を中心に、注射器で引いた水は、なんと五百mを超えていたんです!でも、それをしたあとも、水のしみ出しは完全に止まらず、少しましになった程度。
結局、身体じゅうに紙おむつを巻いて、浴衣で見えないように隠すしかありませんでした。
彼女の場合、どうやったってあの事態は避けられなかった。
最初から頭ではわかっていても、毎朝身体を拭くたびにひどくなっていく床ずれを見ながら、私たちは大きな無力感にとらわれたもの。
床ずれ予防のためのさまざまベッドやグッズも試したけど、やっぱり看護婦やっててつらいと思うのは、やはりこんなふうに、結果が出ない時ですね。
めいっぱい手をかけても、どうしても患者さんの状態がよくならない時、どうやって最後自分をねぎらうか。
もう一例、床ずれを作っても仕方がなかったと思った例は、胃がんの骨転移で、絶え間ない吐き気と全身の痛みを訴えている患者さんでした。
その方は八十代の女性。
生来丈夫な方だったのですが、ある時吐き気がするといって病院を受診した時には、進行した胃がんで、すでに手の施しようがありませんでした。
そのため、短期入院で少し点滴で栄養をつけたあとすぐに自宅に戻り、残された日々を家族のなかで過ごしておられたのです。
家族の理解もあって、飲み薬で苦痛がとれているうちは、自宅でがんばりました。
しかし、幅吐をくり返し、全身の痛みを訴えるようになって、入院してきた彼女は、もう二度と家に戻ることはできませんでした。
入院してきた時彼女は、全身の骨にがんが転移し、寝たまま横を向くのにも強い苦痛がある状態。
おまけに、少し動かすだけで吐き気が増強し、堰吐反射が出てきてしまうのです。
堰吐しようにも、もう胃の中に吐くものは残っていません。
それでも、堰吐反射が出るこのあたりに、仕事を続けていかれるか、途中でつぶれるかの分かれ目があるように思うのです。
ことで、全身の筋肉に緊張が走り、それが骨転移の痛みをさらにひどくしてしまいます。
彼女が私たち看護婦に望んだことは、「そっとしておいて」と、ただそれだけ。
でも、がりがりにやせた身体は、骨の出ている尾てい骨や、腸骨の部分にすぐ発赤を作り、今にも床ずれができそうな状態でした。
知覚麻簿があるわけではない彼女にとって、床ずれの痛みもまた、苦痛を増すでしょう。
ですから私たちは、彼女のベッドにさまざまなマットを敷き、説得して、二時間に一回、身体の向きを変えていったのです。
でも、彼女にとっては、先々出るであろう床ずれの痛みよりも、今ある身体を動かされる苦痛のほうが、はるかに大きかったのでしょう。
私たちが二人ひと組で身体の向きを変えるために彼女のベッドに近づくと、やせて目立つようになった目に涙をためて、「動かさないで。
後生だから、動かさないで」と、手を合わさんばかりに頼むのです。
それを見ると、どの看護婦の心も痛みました。
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